(2007年/日本)
監督:佐々部清
出演:田中麗奈、麻生久美子、吉沢悠、伊崎充則、中越典子
個人的採点:65点/100点
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『こうの史代』による原作漫画を『佐々部清』監督によって『麻生久美子』、『田中麗奈』主演で映画化した作品である。
この作品は『夕凪の街』と『桜の国』の二部構成になっている。『夕凪の街』、原爆投下から13年後の広島に暮す『平野皆実(麻生久美子)』は原爆症に襲われる。『桜の国』、現在の東京に暮らす『石川七波(田中麗奈)』は、ある日突然家を出た父親を追う事で自分のルーツに思いを巡らせていくことになる。そして、『夕凪の街』、『桜の国』の話を通して、3世代にわたる家族の物語がつながっていく・・・。
この作品が原爆の悲惨さを感じる事が出来る作品である事は確かである。観易いと思える様な、原爆がテーマの映画は一般的にはそれ程多くない中で、この作品の意義は大きいと思う。そしてこの手の作品でありがちな、泣かせる作品にはなっていないのは非常に良かった。しかし、原爆の悲惨さを一番感じる事が出来るのは間違いなく広島平和記念資料館に行く事であろう。この映画からは、私にはその10分の1程度の衝撃も感じる事が出来なかった。ただし、その衝撃の少なさが観易さの理由だとは思う。
主演女優二人は良かった様に思う。特に『麻生久美子』はさすがだと言える演技だった。いくつかの主演女優賞を獲得しているのも納得出来る演技を観る事が出来た。『田中麗奈』も『麻生久美子』ほどとはいかないものの、若さの見える現代的な女性としての演技を観る事が出来た。ただ、この作品のキャストの中で『堺正章』だけは、どうも観ていて最後まで違和感があった。彼の顔がそうさせるのかはわからないが、どうも彼だけは『堺正章』として作品の中に紛れ込んでしまった様にしか観る事が出来なかったのである。
私には広島平和記念資料館に行った記憶が強烈に残っている。直視したくないけれども、目を逸らす事の出来ない数々の展示はきっとこれからもずっと記憶に残っていくだろう。まだ、訪れた事のない人には是非訪れて欲しいと思う。私はまだ長崎には行った事がないので、そちらも必ず行かなければならないと思っている。私と同世代の人にとっても2世代、多くても3世代遡れば、間違いなく戦争にぶつかる。それでも自分のルーツをあまり振り返らない日本人にとって、戦争は随分と過去の出来事の様に思えてしまう。そんな時に観るこの作品は、戦争と原爆という事実に目を向けさせてくれる機会を与えてくれるだろう。
さて、右左を感じさせない反戦映画は難しいと思うが、その点この作品は見事にそれをクリアしている様に思える。ただし、繰り返しになるが観易さを感じる反面、どうも映画としては表現が軽くなってしまっている様にも感じられた。原爆は日本人として、これから100年経っても語り続けなければいけないテーマだ。そのテーマの作品ゆえに、10年後、20年後でも残っていく作品になる事を期待したいのだが、この作品は果たしてどうだろうか。アニメ映画の『はだしのゲン』は公開されてから25年以上が経過している様だ(1983年公開)。ただそれでもまだ毎年、夏には日本中で観られている作品である。では、この作品はどうだろうか。時代を越えられる名作になれるのだろうか。私は是非そうなって欲しいと思うが、時代を越える力強さは少し欠けている様にも思えてしまうのである。
『夕凪の街 桜の国』は難しいテーマを誰にでも観易くしてある事に意味のある作品であった。戦争と原爆を知らない私と同世代の人にとって、その問題の入り口としてこの作品は適しているのではないだろうか。
関連リンク
・『夕凪の街桜の国』
・『夕凪の街 桜の国 (双葉文庫)』
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