(2009年/日本)
監督:大森美香
出演:小林聡美、加瀬亮、伽奈、もたいまさこ
個人的採点:55点/100点
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『桜沢エリカ』の原作コミックを、『大森美香』監督によって『小林聡美』主演で映画化した作品である。
『さよ(伽奈)』は卒業旅行としてタイのチェンマイを一人で訪れた。そこには自分を残して家を出た母・『京子(小林聡美)』がおり、その京子に会うことが旅の理由であった。タイに着いた『さよ』を出迎えたのは『京子』と共に働く『市尾(加瀬亮)』であった。『さよ』がプールのあるゲストハウスに着くと、そこには『菊子(もたいまさこ)』や『ビー(シッテイチャイ・コンピラ)』と楽しげに暮らす『京子』の姿があり、それが『さよ』を苛立たせるのだった・・・。
2010年も日本の夏は暑く、そして忙しいので、こんなプールがある静かな場所で本を読みながら過ごしたくなる。全編のんびりした空気が漂う作品なのだが、特に夕方のプールサイドで『京子』、『市尾』、『さよ』、『ビー』が一緒に『京子』のギターにあわせて歌を歌うシーンは感動的な程に心が穏やかになる。人間には(少なくとも私には)あんなペースで過ごす日がたまには必要なんだ、と強く思わせられたシーンであった。ところで、このプールと言うのはプール自体が重要なのではない、と思う。重要なのはプールサイドなのだ。プールで楽しく水遊びをする事がメインなのではなくて、その周りでゆっくりと過ごす事、それが重要なのだと思う。それが、プールというタイトルにもかかわらず、誰一人としてプールに入る事がなかった理由だと思った。
『市尾』の作った鍋を囲んで『京子』と『さよ』の二人で食べる夕食、このシーンでの台詞はサッパリとした話し方ではあるものの非常に鋭い台詞であった。内容は単調直入で、日本人的な言い回しではない様に思えた。それは私にとって非常に新鮮で、それが『京子』が一人タイに渡ってこれた理由だとも感じられた。これには反感をもつ方が少なくないとは思うが、私は『京子』の「人と人はいつも一緒にいる事だけが良い事かなのかどうかわからないし。」というのは(子供はいつでも親と一緒にいたいという大前提は当然として)強く同意出来る。その時々の自分の気持ちに素直になれる人は強い人だ。そして、相手の素直な気持ちにも広い心をもてる人だと思う。(この『京子』を観ていて『ゴーヤーちゃんぷるー』の『喜美子(風吹ジュン)』を思い出した。)私はこんな考え方の出来る女性に憧れる。
実の母に置いていかれたと言う思いのある『さよ』の『ビー』に対しての最初の思いは嫉妬だろう。それがゆったりとした時間の中で『市尾』や『菊子』と過ごす事で和らぎ、親がいるかどうかすらわからない『ビー』を思いやり始める。『さよ』は『ビー』と出会い、『ビー』の境遇を考える事で自分と母との問題に何かしらの糸口を見つけたのではないだろか。
作品の部分部分は好みであったし、良い作品だと思ったのだが、全体としてのイメージが弱すぎる様に感じた。それが『かもめ食堂』との大きな違いでもある。私個人的に一番すっきりしなかったのは『伽奈』の表情であった。特に車内でのラストシーン、原作を読んでないのでどんな心理描写なのかわからないが、『京子』に話しかけられるまで表情がオープニングと全くかわらなかったのだ。『さよ』は『ビー』と会い、『京子』に想いをぶつけた事で間違いなく心を軽くして帰国した事だろう。(問題が解決したかしていないかは関係ない)それなのに、オープニングで空港に到着した時と帰る時とで余りにも変化がなさすぎた様に思えてしまった。『伽奈』を生かすならもう少し、人物背景を薄くした方が良かったのではないだろうか。
『プール』はのんびりとリゾート気分で観る事をお勧めする。楽しもうとするのではなく、あくまで心をゆったりとさせる作品であった。
関連リンク
・『プール(原作)』
・『かもめ食堂』
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