(2002年/フランス・イタリア)
監督:オタール・イオセリアーニ
出演:オタール・イオセリアーニ、 ジャックビドウ、アンヌ・グラヴス=タルナヴスキ、ナルダ・ブランシェ
個人的採点:90点/100点
『月曜日に乾杯!』は『オタール・イオセリアーニ』監督による一人の平凡な中年男性によるゆったりとした空気感漂う映画である。
工場で働く平凡な中年男性である『ヴァンサン(ジャック・ビドウ)』はある月曜日の朝、突然工場をさぼり、ワイン片手にヴェニスへの旅に出る。『ヴァンサン』は旅先で自分と同じ様な平凡な人々と出会い、そして穏やかな時間を過ごしていく・・・。
ストーリーには特に起伏がない。平凡な中年男性が淡々と物語を紡いでいく。アクションもサスペンスもないので、観る人によっては退屈で眠くなってしまうだろう。でも、そこが良い映画だと思う。気負わずにゆったりとした気持ちで楽しみたい映画である。個人的にはこの作品を楽しめない時はきっと心の余裕がなくなっている時だと思うのだ。こういった映画を楽しめる心の余裕を常に持っていたいものである。
さて、『ヴァンサン』にとっては日常からの脱出がイタリアへの旅だったのだが、その先にあったのは他人の日常である現実。他人から見れば刺激的な毎日の様であっても実際は平凡な毎日、と言う視点は自分の生活に自信がなくなると忘れてしまいがちではある。人は常にドラマを追い求めてしまうが、本当にドラマチックなドラマなんてものはほとんど存在せず、むしろ自分の生活にこそドラマが潜んでいると言う事を思い出させてくれた。
好きなシーンの一つに『ヴァンサン』が『カルロ(アリーゴ・モッツォ)』に誘われて屋根の上からヴェニスの街を眺めるシーンがある。ここでの会話は味わい深い。観光客がみる景色とは違う、日常を過ごす街に対する愛情が『カルロ』からは感じられるのだ。自分の住む街にこんな愛情がもてればきっと平凡な毎日でも幸せを感じて暮らせるのだろう。
月曜日になると自殺率が高くなると言われる現代日本。その原因の一つに精神的な余裕のなさがあると思う。どんな人にも職場や学校に行きたくない理由の一つや二つはきっとある。行きたくないな、と思った時に行かないと言う選択肢がある事は非常に大きいと思うのだ。また、その選択をした人に戻る場所があるかどうかも問題だ。この作品では『ヴァンサン』がフラッと旅に出るが、最終的に戻ってくると何事もなく受け入れられる。そんな懐の深さが今の日本には足りないのではないだろうか。
『月曜日に乾杯!』は日曜日の午後、翌日からの一週間を憂鬱と感じてしまった方にワインかビールでも片手にゆったりとした気持ちで観て頂きたい作品であった。